〜自己託送と余剰電力売電を両立させた「4社協働」スキーム〜
自動車部品を中心にグローバルに事業を展開する株式会社ニフコ様は、かねてより持続可能な社会の実現を重要な経営テーマに掲げ様々な社会課題に取り組んでおられています。そんなニフコ様とデジタルグリッドさん、カネヨシさん、FDの4社協働で進めた「つじつまを合わせる間接的な環境対策ではなく、実際にCO₂を削減する“フィジカル”な対策が実現できた」本プロジェクトについて、株式会社ニフコ執行役員でありESG推進室 室長の村田憲彦様にお話を伺いました。
1.名古屋工場の“断念”から始まった再エネへの道

私ども自動車業界では、サプライチェーン全体でのCO₂削減にむけ、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入が強く期待される業界です。当社も常に「どのようにエネルギー供給に対する課題を解決していくか」という視点持って検討を続けてきました。
まず検討したのは、名古屋工場への太陽光発電設備の設置です。しかし、建屋の耐荷重制約により導入は断念することになりました。荷重量自体は補強などを行えばクリアできますがその工事には工場を長期停止させなければならず、弊社にとってまったく現実的ではありません。他の選択肢も検討しましたが、どれも実現までのハードルが高く、一時は再エネ導入計画を断念せざるを得ない状況に陥りました。
その後、FDさんの「牛舎を活用した太陽光発電の自己託送」の導入事例を拝見し、当社でも同様の仕組みを取り入れられないかと問い合わせたのが、本プロジェクトのスタートとなります。
※自己託送:遠隔地で発電した電力を自社施設で利用する仕組み
2.自己託送実現の壁とブレークスルー
理論上は魅力的な自己託送ですが、実現の道のりは決して容易ではありませんでした。太陽光発電は天候に左右され、日照時間や雲の動きによって発電量が常に変動します。一方で、工場の稼働状況は生産計画に基づいて変動するため、発電と消費のタイミングが完全に一致することは稀です。この需給バランスが崩れるとペナルティや最悪発電システムにも大きな影響を与えるため、ここでも「やはりダメなのか」と社内の意気が落ち込んだのを覚えています。
この課題に対して、当社は「売電」という仕組みを取り入れることで解決する方法を模索しました。作り過ぎた分を売ってしまえば良いという単純な発想ではあるのですがこちらにも実現には多くの課題が残っており、特に大きな壁となっていたものは制度・法律です。私どもも自己託送や売電の専門家というわけではなかったので法律の文書を1から見直し、FDさんに質問。FDさんの方では資源エネルギー庁、各電力会社など関係機関へ確認・相談を重ねながら、法令の文言を読み解き、スキームの検証を進めました。このプロセスは数か月にわたる根気のいる作業でした。

また自己託送を実現するには、そもそも太陽光を設置できる場所を確保することも重要な条件でした。当社の工場は荷重の問題があったため使用できず検討を進めていたところ、取引関係のあった株式会社カネヨシが新しい物流倉庫を建設するということで屋根の一部を貸していただけることになり、太陽光パネル設置の問題も解決しました。設置についてはもちろんFDさん主導で行っていただきました。
太陽光パネルの専門家だけあってFDさんには本当に助けられました。1つ1つの疑問をそのまま投げて答えを出していただいて。曖昧な表現の箇所から別の解釈を試みてそれを確認、ということを数か月にわたって粘り強くご協力いただき、ようやく申請まで形にすることができました。
3. 4社協働により実現した「自己託送+余剰電力売電」のハイブリッドスキーム
法解釈を整理する中で、FDさんから「デジタルグリッド株式会社のプラットフォームを使えば、需給をリアルタイムで調整しながら余剰電力も売電できる」と提案を受け、そうして共に形にしたのが「自己託送と余剰電力売電を組み合わせたハイブリッドスキーム」です。
本スキームでは、発電した電力を自社工場で活用し、使いきれなかった余剰分は市場で売却することで、電力を無駄なく活用しています。その結果、自己託送に必要な需給バランス(同時同量)を満たしながら、安定した運用が可能となりました。なお、自己託送では電力の需要と供給を30分単位で予測し、計画値を広域機関(OCCTO)へ報告する必要がありますが、本件ではデジタルグリッドのプラットフォームを活用することで対応しています。これまで“自社で発電して自社で使う”ことが前提だった再エネ活用に、新しい選択肢が生まれた仕組みだと考えています。

4. 導入後に見えた成果──数字の効果と“実感の変化”
2025年10月、ついに太陽光発電設備が稼働を開始しました。稼働以降、発電量は安定しており自己託送で使い切れなかった電力もスムーズに売電できています。システムの運用はほぼ自動化されているので、現場の負担もありません。
導入後の成果試算では、ニフコ国内グループの再エネ比率は4.1%向上する見込みです。また、二酸化炭素の間接的排出に当たる『スコープ2』においては、4.4%の削減につながると試算でき、環境目標達成に向けた大きな一歩となりました。
外部からも大きな反響があり、この取り組みを社内報や環境報告書で紹介したところ、取引先からの「どうやって自己託送を実現したのか教えてほしい」という問い合わせや、webサイトに掲載されたリリースは17社ほどに取り扱っていただき、うち3社からは取材なども今後行われる予定です。再エネ活用の新しいモデルとして注目されているの実感しています。
数字としての成果ももちろん大切ですが、当社のような自動車業界は常に地球環境やエネルギー問題について考え続けなければいけません。単なるコスト削減のための設備投資ではなく、企業としての責任を果たす取り組みとして社内外に発信できたことは非常に大きいと考えています。
5. 設置して終わりではない、ともに考え続けるパートナー

本プロジェクトはエネルギー供給や再エネ対策に悩む多くの製造メーカーにとって示唆に富む事例だと考えます。再エネの導入は、単にコストを下げるための施策ではありません。制度改正やエネルギー市場の変動が続く中で、安定したエネルギー調達を実現し、企業のレジリエンスと価値を高める重要な投資です。
市場には、設備を設置して終わりというケースも少なくありません。しかし、長期運用や将来の更新・廃棄まで考慮すると、導入後も粘り強く伴走してくれる専門性を持つパートナー企業の存在は欠かせません。非化石証書の購入などで辻褄を合わせることも制度の上では可能ですが、しっかりとCO₂を削減する実行を伴ったフィジカルな再エネ施策の需要は今よりもさらに高まるでしょう。
FDさんには自己託送と売電の仕組みが揃っており、それを一気通貫で行うことができます。自然破壊が懸念されていますが、建物の屋根を活用したスキームを持ってらっしゃるので自然環境を破壊することなく、利用されていない土地を活用するなど、環境配慮を前提にしたスキーム構築も導入可能です。
まだまだ自己託送や売電の考え方は広く普及しているとは言えませんが、これを契機フィジカルな再エネ活用が広がることを期待しています。