1. 導入の背景:家畜を守る“温度との闘い”
近年、畜産業における夏季の高温対策は避けて通れない課題となっており、地球温暖化による猛暑日の増加に伴い、畜舎内部の温度上昇が家畜の健康や生産効率に悪影響を及ぼす状況が続いています。
従来の暑熱対策では、ミストや送風機によって家畜の体感温度を下げる方法や、屋根に断熱材を入れて熱伝達を抑える方法などが一般的です。また、牛や豚は高温環境下でストレスを受けやすく、餌の摂取量減少、乳量の低下、増体の鈍化など、生産性に影響が出ることが知られています。畜産農家にとっては、暑熱ストレスによる「収量低下」、その対策のための「設備投資」、そして「電気代の上昇」が経営面での負担となり、深刻な問題になっています。
2. 課題:「暑さを防げない」「電気代が高い」従来対策の限界
愛知県で黒毛和牛1,400頭を飼養する下村畜産でも同様の悩みを抱えていました。夏場には畜舎内の温度が外気温よりも5〜7℃高くなる日が続き、特に午後の時間帯は屋根材が熱を吸収することで夜になっても温度が下がりにくく、牛が落ち着かない様子を見せていました。その結果、餌を残す個体が増え、乳量や増体にばらつきが生じ、生産性の低下が明確に見られるようになっていました。健康管理の手間や飼料ロスの増加など、経営への負担も大きくなっていました。
一方で、暑熱対策に取り組むにしても、畜舎の屋根は建設から十数年が経過しており、塗装の劣化や錆が目立つ状態でした。補修にはコストがかかり、「修理だけで終わるのでは意味がない」と感じていたことから、冷却装置の増設や大型化といった対策は現実的ではありませんでした。そこで求められたのは、「既存の建物を活かしながら」「低コストで」「確実に温度を下げる」ことができる、根本的かつ持続可能な解決策でした。
3. 解決策と導入効果:畜舎温度が4℃低下。家畜の健康・生産性が回復
課題解決に向け、同社では株式会社FDが提供する「太陽光パネルを屋根に設置し直射日光を遮ることで、パネルと屋根の間に空気層をつくり断熱効果を高め、屋根からの熱伝達を大幅に抑制する」方式を採用しました。
また、太陽光設備の導入は屋根をFDへ貸し出し、売電収益で設備費用を賄う仕組みのため、導入側の費用負担がゼロである点も大きな決め手となりました。

屋根への太陽光パネル設置により、下村畜産では多くの具体的な成果が得られました。まず大きな変化として、牛の死亡事故の防止が挙げられます。以前は牛舎内が高温になる夏場には、暑さに弱った牛が体調を崩し、そのまま死亡してしまうケースが発生していました。しかし、パネル設置後は屋根が直射日光を受けにくくなり、牛舎内温度の上昇が抑制。環境の変化は明確で、導入以降、同様の死亡事故は一度も発生していません。飼養規模の大きい下村畜産にとって、この効果は経営的にも精神的にも非常に大きなメリットとなりました。
また、暑熱ストレスの軽減についても高い評価が寄せられました。太陽光パネルが屋根の「日除け」として機能し、屋根材の温度上昇を抑制することで、牛舎内の温度が全体的に安定。現場からは「暑熱対策として非常に有効」との声が上がり、従来の送風機頼りの対策では得られなかった“根本的な温度低減”が実現しました。
さらに、この温度低減は生産性向上にも直結しています。乳牛は暑さに弱く、暑熱ストレスを受けると乳量が顕著に低下します。下村畜産でも夏場の乳量減少は長年の課題でしたが、遮熱効果が確保されたことで乳量が以前より増加。「暑さが和らいだことで、乳量が目に見えて戻ってきた」との声もあがり、牛の健康状態が生産量にも反映される結果となりました。
また、下村畜産以外では、自家消費に使っている牛舎も多くあります。太陽光で発電した電力は畜舎や関連施設で自家消費され、冷却設備や照明の電力コストを1~2割削減。遮熱効果による温度低減と合わせて、経営面・環境面双方にメリットをもたらすことが可能です。
4. ―遮熱×再エネ×自己託送。太陽光パネルの新たなエネルギーモデルへ―
下村畜産で得られた成果は、単なる1施設の成功にとどまりません。これまで太陽光パネルの活用は「電力を多く使用する施設での自家消費」が中心でしたが、近年では電力使用量は少なくとも広大な敷地を持つ畜産や農業分野でも活用の可能性が広がっています。自己託送制度を活用すれば、農家が大量に電力を使用しなくても、太陽光で発電した電力を遠隔地の自社施設や関係会社へ送ることが可能になります。
たとえば、畜舎屋根や農園で発電し、その電力を自社の加工工場、本宅、販売店、冷蔵倉庫、直売所などで自家消費をすることが可能です。この仕組みを活用することで、農地の有効活用、電力コスト削減、再エネ導入推進を同時に達成でき、農家にとって新たな収益モデルとなり得ます。さらに、この仕組みが地域全体に広がることで、地域としてのエネルギーレジリエンス※1向上にも寄与します。
下村畜産の事例は、太陽光パネルの「遮熱効果」や「生産性向上」といった直接的なメリットだけでなく、再エネを軸とした地域活性化や新たなビジネス創出につながる取り組みの指針ともなりました。

※1 自然災害や人為的災害に持ちこたえ,迅速に復旧しうるエネルギーシステムにおける能力